御本尊に頼んだほうが早い

弁栄上人が浅草誓願寺に滞在されていたとき、たまたま一人の修行者が訪ねてこられました。
その修行者は多くの人々に喜捨を集めて、弘法大師の御堂を建立しようと弁栄上人に寄付薄の序文をお願いしました。
上人はその修行者に尋ねました。「私が序文を書くと何かご都合が良いのですか」と。
修行者「はい、上人に序文を願えば多くの人々が信用して寄付金が多く貰えますから。」
上人「ではそのご本尊はどんな御利益がありますか?」と。
修行者「はい、このご本尊は大師自らの御作で特に霊験あらたかで、どんな願いでも必らず成就いたします。」
上人静かに「はぁ、そうですか。ではそんなにご利益があるならば、何も私が序文を書かずともそのご本尊にお願いした方が早いではありませんか」と。

(『ミオヤの光縮刷版第1巻』354頁参照)